我国の鶏肉生産の現状

世界のブロイラー企業とブロイラー産業の現状と将来

 2010年の時点での、世界中の鶏肉(ブロイラー)生産は、7000万トン(国際的な鶏肉の重量基準R-T-C=放血し頭・脚・内蔵を除いた中抜き丸鶏の重量)、羽数でいうと約500億羽のブロイラーが生産されています。これはほとんど、世界各国の専門的なブロイラー企業が生産しています。

世界の主要生産国の鶏肉(ブロイラー)生産量と輸出量
世界の主要生産国の鶏肉生産量と輸出量

 鶏肉には採卵鶏の廃鶏肉もあるため、おそらく1000万トン。鶏以外のブロイラーを含めると9000万トンあり、合計1億トンぐらいの生産量になります。
 このうちアメリカが24%、中国が19%、ブラジルが16%であることから、世界中のブロイラー生産量の40%はアメリカとブラジルで占められています。鶏肉の貿易(輸出)量は、2010年では全世界で683万トンで、その内アメリカとブラジルで91%を占めています。2018年には、世界のブロイラー生産は8000万トンと予測されています。
 将来的には、先進国での生産が、アメリカを除いてはレベルオフとなることから、現在消費が少なく人口の多い国のインドやインドネシア、中国、ベトナムなどでブロイラー生産が急増すると予測されます。しかし、それに見合う飼料原料がないとつくれないため、十分な飼料原料が供給できない時は、これらの国では生産できません。結局アメリカとブラジルが冷凍鶏肉を輸出することである程度う世界中の需要量を補う以外、鶏肉の需要に応える手段はないと考えられています。

ブロイラーと銘柄鶏、地鶏-肉用鶏のそれぞれの違いは?

 肉用鶏の主な種類について、字面だけではなかなかわかりにくいブロイラー、銘柄鶏、地鶏。ブロイラーとは白羽食のメス系とオス系の交配でできたものです。銘柄鶏というのも、大部分は品種的にはブロイラーと同じです。餌や飼い方、薬品使用の有無、飼育期間などの違いで基本的には変わりません。
 地鶏には2種類あって、一つ目は、地の鶏といい昔から日本にいる軍鶏など在来鶏の雄をブロイラーのメス系統にかけたものです。発育が早いため80日くらいで3kgくらいになって出荷できます。
 もう一つ目は、地鶏のオスと昔の兼用種(例:茶色のロードアイランドレッドをかけたもの)。ロードアイランドレッドは肉用に改良されたものではありませんが、成鶏になった時に肉がたくさん採れ、卵もよく産みます。しかし、発育はかなり遅く90日以上飼わなければなりません。比内鶏のように6~8ヶ月飼わなければいけない種類もいます。
 他に、褐色コーニッシュをロードアイランドレッドに交配した赤羽色銘柄鶏という鶏がいます。もともとコーニッシュは1950年代までは褐色でした。褐色の鶏はメラニン色素があり、と体にフデゲという発育途中のメラニン色素の詰まった羽軸が残って汚く、白羽色鶏でないといけないことから、褐色コーニッシュにもドミナント・ホワイトの遺伝子を導入して白くし、ブロイラーは1960年代に全部白羽色になりました。しかし、1940年~50年第のブロイラーは、まだ褐色コーニッシュを使っていたため、ロードアイランドレッドを交配したものを、地鶏の中でも特に赤鶏といって宣伝しています。
 褐色コーニッシュは1950年代からあまり改良されず、ただ保存していただけで、発育が今の白羽色鶏に比べるとかなり遅いです。現在の日本でのブロイラーの平均的な出荷時生体重で比べると。白羽色専用種は6.5週齢、赤羽色ブロイラーでは10週齢での出荷になります。

日本ではもも肉のほうがむね肉よりも圧倒的に好まれる

 日本のブロイラー産業は、1960年代に始まりました。あらゆる産業に盛衰のライフサイクルがあるように、ブロイラー産業にもちょうど10年ごとに導入期、成長期、成熟期、衰退期というサイクルが顕著に表れます。1950~1960年代、新しい鶏種、大群飼育方式、配合飼料・薬品などの開発によって安価な鶏肉の大量生産に成功して大発展を遂げたブロイラー産業ですが、1990年代以降は、生産羽数で見ると衰退期といえます。半世紀を経て、高級化、多様化、個性化を求め、健康と安全を志向する消費者に対応して、ブロイラーから銘柄鶏、地鶏への変換を進めた結果、リバウンド現象が起こったと見ることができます。

肉用若鶏及びその他の肉用鶏の生産高の推移
内用若鶏及びその他の内用鶏の生産高の推移

 上の表は、平成20年と平成22年のブロイラーと、その他の肉用鶏を比較したものです。ブロイラーの中には銘柄鶏が45%程度入っています。その他の肉用鶏は、若鶏と肥育鶏とを区別する万国共通の規格である3ヶ月齢異常の鶏をカウントしています。
 平成22年は、ブロイラーは少し増えていますが、地鶏は大幅に減っています。不景気で実質所得が減って、高価格商品の消費低迷と、外食が関係していると考えられます。外食の低価格品はどんどん安物になってきて、低価格の食材しか使われていないためです。
 日本の食鶏は、もも肉だけ売れてむね肉は売れないという特徴があります。特に関西はもも肉先行が強く、もも肉8に対してむね肉が2,極端な場合には、もも肉9に対してむね肉1の割合でしか売れません。関東でももも肉7に対してむね肉3くらいの割合でしか売れません。その理由としては、もも肉は脂肪が多いので味が濃いからです。
 鶏肉は、本当は風味という点ではむね肉のほうが強いのですが、日本人は牛肉の消費が少ない、価格が高いこともあり、レッドミートの消費が少ない傾向があります。そのため鶏肉はもも肉のほうが畜肉、赤肉に近いということで売れるわけです。
 このことは消費者側から見れば、単に嗜好の問題に過ぎませんが、生産者の経済的観点から見ると大きな問題を含んでいます。コストの安いブロイラーはいいのですが、コストの高い地鶏や銘柄鶏になると、もも肉だけ売れてむね肉が売れないと、高コストが更に嵩み、経営的には非常に難しくなります。

日本は鶏肉を調整品として大量に輸入している特殊な国

各種鶏肉の卸売価格
各種鶏肉の卸売価格

 平成18年の東京卸売会社6社の平均卸売価格です。1kg当たりブロイラーがむね肉204円、もも肉541円、銘柄鶏がそれぞれ488円、857円、地鶏が1,833円、2,162円となっています。もちろんコストがこんなに違うわけではありません。地鶏は高コストですが、銘柄鶏は餌などが多少違う程度ですから、これは上手に販売しています。直近のデータがないので断言はできませんが、今はこんなに高くは売れていないと思います。
 また、高価格の地鶏、銘柄鶏のむね肉が全部売れればいいのですが、1~2割しか売れないとなると、あとは全部ブロイラーと同じ204円で売らなければならない。そうなると、コストの高い銘柄鶏・地鶏を作っている人は全く儲からない赤字になってしまいます。外国の赤ラベル鶏は、半分は丸鶏で売ってしまうため問題はありません。

輸入鶏肉と価格
輸入鶏肉と価格

 国産鶏肉と輸入鶏肉の関係です。国産鶏肉は、と体と中抜きが6万トン、解体品が106万トンです(解体品とは、主に生肉)。輸入のブロイラーは、生肉42万トン、調整品37万トン(調整品とは、焼き鳥、串に刺したもの、フライドチキンなど)を凍結したものです。
 輸入鶏肉の価格は、平成22年の1年間の平均卸売価格です。231円というのは、横浜・東京港着の輸入価格です。それを通関して、輸入業者の手数料も加えて卸売価格にすると、だいたい100円アップして320~330円というのがブラジル産の輸入もも肉の価格です。それでも国産と比べる2分の1です。直近の卸売価格は飼料価格も上がり、国産も値上がりして650円。ブラジル産のもも肉の輸入価格は1kg当たり277円で、卸売価格は1kg当たり370~380円になっていると思います。
調整品というのは、加工品を冷凍したもので、冷凍食品で37万トンというのは、驚愕の量です。去年、国内で作られている冷凍加工食品製造総量は118万トンで、それに対しての37万トンであることから大量に輸入しているのは日本だけです。今年はおそらく40万トン以上になると思われます。
 こんなに大量の輸入をしている国は、人口割合で見ると他にはありません。EU27ヶ国の鶏肉輸入総量が90万トン(2008年)です。日本だけで42万トン、調整品も入れると80万トンくらいです。コンビニで売っているフライドチキンなどは、だれも輸入だと思わない。ガード下の焼き鳥屋でおじさんたちが食べている焼き鳥も全部国産だと思って食べているのではないでしょうか。
 鶏肉の流通に関しても、日本ならではの事情があります。東京の卸売会社15者の調査(平成18年)では、仕向け先別の国産鶏肉と輸入鶏肉の比率を見ると、総合スーパーは国産が90%、輸入が10%ですが、外食産業は、国産鶏肉が52%で輸入鶏肉48%です。外食・中食は、圧倒的に輸入鶏肉の使用割合が高い。仕向け先、ユーザーによって、鶏肉の種類別の消費割合が大きく異なっていることから日本は特殊な国だと思います。

世界に比べ弱体化している日本の鶏肉の生産基盤

日本における鶏肉生産基盤の弱体化
  • 鶏舎の老朽化
  • 食鳥処理場の老朽化
  • 鶏舎建設費が高い
  • 食鳥処理場の規模が小さい
  • 飼料コストが高い

 日本国内のブロイラー産業は、非常に生産基盤が弱体化していると思います。
 まず、鶏肉に関しては、老朽化が進んでいてます。全国に約2700戸のブロイラー専門の生産者がいて、年間約6億羽を生産していますが、82%くらいは鶏舎がもう20年以上経過しています。ただこれを調査したのが平成17年度ですから、現在では既に25年以上経過している計算になります。新しい鶏舎に更新しようと思ってもお金がない、あるいはそれほど儲からないので更新できないのが現状です。
 食鳥処理場の老朽化も進んでいます。ゆ洋設備の処理加工設備は、償却も7~10年、短いと5年くらいですが、76%が10年以上です。古い機械を直しながら使っているわけです。鶏舎や処理場を新築しようとすると、鶏舎の場合は土地代を除いて、内部設備と建屋だけで坪10万円くらいになります。今は円高ですからアメリカでは2万円くらいでできるのではないでしょうか。ブラジルではもっと安く出来ます。
 それから食鳥処理場の建設費が高い。日本の処理場は非常に規模が小さくて、大羽数を処理できるような処理場はありません。世界のブロイラー処理場は、1日20万羽を処理するのが標準です。日本は、一番大きい処理場でも1日2万数千羽しか処理していない。それだけ鶏が集まらないのです。
 それでいて、処理場を作ろうとすると建築費が非常に高い。平成18年に、ある処理機械メーカーに、一番理想的な1日6万6000羽処理できる処理場の新築費用を試算させたところ66億円です。土地代、給排水などの設備を入れると100億円くらいかかります。おいそれとはとてもできない数字です。現在は年間6億3380万羽を全国の165処理場で1処理場1日平均1.4万羽しか処理していません。
 それから飼料コストが高い。アメリカの2倍、初生ひなコストも3倍かかる。こういう非常に困難な脆弱な生産状態、これが日本の鶏肉の生産基盤の現状です。

財団法人 日本食肉消費総合センター
「鶏肉の実力~健康な生活を支える鶏肉の栄養と安全安心~」
我国の鶏肉生産の現状と課題

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